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仕事に「人間味」を。Slackがつくる感情的UX

林花音

柔らかく親近感のある色彩、細かなモーション、社内の内輪のノリが可視化されるようなオリジナル絵文字…Slackは、単なるビジネスチャットにとどまらず人間味のある職場ツール体験を提供しています。

その背景には エモーショナルデザイン(人間味を意図的に設計する姿勢)があり、絵文字リアクションやマイクロコピー、音・色のトーンなどが、業務ツールに「人間味」を与えています。
ここでは、Slackをエモーショナルデザインの切り口から分析し、Slackが考える美学や価値基準について考えてみたいと思います。

Slackはゲーム会社から生まれた副産物だった?

Slackの歴史

Slackは、もともとはゲーム会社の社内ツールだったことをご存知でしょうか?
Slackの創設者 スチュワート・バターフィールド(Stewart Butterfield)はTiny Speck社というスタートアップを立ち上げ、「Glitch(グリッチ)」というゲームを作っていました。

「Glitch」にはカルト的な人気があったものの、資金調達に至らなかった背景があります。しかし、ゲーム開発の際に社内メンバーが作っていたコミュニケーションツールに注目し、企業向けに改良したものが、のちのSlackになります。

Glitch

Slackのエモーショナルデザイン要素

ハドルミーティングに参加した時の心地よい音楽…
アクションに対して現れる可愛らしいアニメーション…
未読メッセージを消去した後、達成を祝うメッセージ…
チームごとにバリエーションゆたかなカスタム絵文字…

これらは偶然の産物ではなく、心地よさや喜び、楽しい瞬間を生み出すために入念に設計されたデザインです。

まずは、Slackのエモーショナルデザインを3つご紹介します。

【要素1】トーン & カラーパレット

エンタープライズソフトウェアとしてよく使われる青灰色系を用いるのではなく、コンピュータゲームを彷彿とさせるような色彩軽やかなアニメーションが、事務的な業務ツールに親密さをもたらしています。

Slack公式HPなどで使われるカラーやモチーフ
Slackプロダクトで使われるカラーやモチーフ

【要素2】 マイクロコピー & マイクロインタラクション

Slackをはじめて使う人に向けたツールオンボーディングや、エラーメッセージには、いつも軽やかな日本語が使われています。

Slackは公式Blogでマイクロコピーには厳格なブランドガイドラインを定めていることを明記しており、”Slackらしい” 言葉(口調)がプロダクトにとって大事な要素であることが伺えます。

ツールのオンボーディングで使われている口調「Hi, Slackbot here!」

送信確認のための注意書きには、
軽やかな口調となんとも気の抜けるゆるい鳥のイラストが
公式HPでも軽やかな口調が徹底されている。
個人的には左下の「その名も”クイックスイッチャー”!」という温度感が好き

【要素3】 ユーザーのオリジナル絵文字

Slackは、ユーザーが好きな絵文字を登録しツール内で使える仕組みがあります。文章よりも速く、やわらかく感情を伝える仕掛けとして、公式HPでもemojiの利用を推奨しています。

Slack公式HPにも「Upload custom emoji to express your team’s culture(チームの文化を表現するためにカスタム絵文字を登録しよう)」と書かれている/ note社では、企業のバリューを絵文字にしているそう

Slackの美学

さて、ここからはSlackの公式発信を元に、Slackの美学を紐解いてみましょう。

Slackは、すべてのプロセスと機能が、人間味のある職場ツールとなることを第一目標に設計しており、Slackが創り出すすべてのものは、仕事生活をよりシンプルに、より楽しく、より生産的にするという使命を推進するために存在していると述べられています。

Slackのプロダクト原則

Slackは、社内の誰もが「Slackらしさ(”Slacky”)」を実現できるよう、実行指針として5つのプロダクト原則を定めています。

5つのプロダクト原則

・Don’t make me think(考えさせない)
・Be a great host(優れたホストたれ)
・Prototype the path(道筋をプロトタイプせよ)
・Don’t reinvent the wheel(車輪の再発明はしない)
・Make bigger, bolder bets(より大きく、より大胆な賭けをする)

例えば、プロダクト原則『考えさせない』は、Slackの使用に伴う認知負荷を徹底的に下げることで、ユーザーが重要な業務に集中できる時間を増やす努力をすることを意味します。

“Slackらしくあるためには?”

Slackのチームは、これを「Slackらしく」感じさせるにはどうすればいいか?と常に自問し、プロダクト原則に沿った意思決定をしていることがわかります。

小さな課題に専念する”Customer Love Sprints”

さて、既存機能への微細な改善や細部にこだわる姿勢こそが、Slackの重要な競争優位性の一つであるということが、ここまで読んでいただいた皆さんにはお気づきいただけたかと思います。

Slackは、プロダクトの急成長に伴い、大きな機能改善に追われていた頃、ユーザーが日々直面する細かな課題の対応を全て後回しにせざるを得ないことに気づきました。

そこで、定期的にまる2週間を割き、細かな課題のみに専念する「Customer Love Sprints」を取り入れています。

We called it “The Customer Love Sprint”

また、Slackは2023年8月に、集中力と生産性アップを支援するため、新しいデザインをリリースしました。新しいデザインについての質問やフィードバックをいつでも受け取れるような仕組みが用意されています。もしかしたら、あなたの小さな気づきがSlackチームに届いており、「Customer Love Sprints」での議題になっているかもしれません。

新しいデザインに関するフィードバックを共有する仕組みがある

株主の声が反映されにくい、Slackの舵取り(経営)

Slackは2014年に一般公開されて以降、急速に成長し、 2021年7月にSalesforceにより2.9兆円で買収されるに至りました。
そんな組織の急拡大にも関わらず、なぜここまで創業当初の想いや美学を保ってこれたのでしょうか?

創業者 Stewart Butterfield氏

一般的に、スタートアップ企業は「新規株式公開(IPO: Initial Public Offering)」による上場を選択するケースが多く、まとまった額の成長資金を入手するとともに、増資による資金の調達を繰り返しながら成長を遂げてゆきます。

しかし、Slackは、株式市場への上場にあたって、新株の発行もしくは既存株式の売り出しを伴わない「直接上場(Direct Listing)」を選択しています。これにより通常の10倍の議決権を付与した種類株式を発行し、過半数の議決権を創業者を中心とする身内で固めることで株主が経営に口を出しにくいスタンスをとっていた背景があります。

また、創業者であるStewart Butterfieldは哲学の修士号を取得しています。デザインをバックグラウンドにもつ彼は卒業後、友人のスタートアップに加わることからキャリアをスタートし、デザインフリーランスや自身の事業立ち上げによる成功と失敗を繰り返し、現在に至っています。

Slackというプロダクトのコアである「人間味」のあるソフトウェアと、それを体現するための細かなデザインは、哲学を軸とした創業者の思想経営構造によって守られてきたのでしょう。

最後に

愛されるプロダクトは、機能だけでなく、一貫した哲学とそれを満たす細やかな設計と運営的な工夫があることがわかりますね。

Highliteでもエモーショナルデザインの切り口を事業へ反映するサポートを行っています。本記事を読んで少しでも気になった方はお気軽にご連絡くださいませ


参考記事
– We took our biggest live event virtual—and it felt a whole lot like the real thing(slack design)
– The voice of the brand: 5 principles for great Marketing copy at Slack(slack design)
– The most overlooked growth hack: designing for emotions(Medium)
– Slackの使い方で企業文化がわかる!note社がよく使うカスタム絵文字(note)
– Prototyping the path: how Slack builds product with customer love – Ethan Eismann (Config 2023)(YouTube)
– Why your organization needs product principles(slack design)
– Crafting Digital Delight: Inside Slack’s Studio Team(slack design)
– Sweating the small stuff(slack design)
– Slackの直接上場の背景には何があるのか?(GLOBIS)


執筆者情報:Kanon Hayashi

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