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人間の創造性を拡張する- Notionのレゴ的モジュールデザイン[エモーショナルデザイン]

林花音

ページにブロックを一つ置く…

/(スラッシュ)を打つと、
本文・画像・データベース・埋め込みが現れ、構造が自分の手つきに沿って整っていく…

ページアイコンやカバーで、ほんの少しの“自分らしさ”を差し込むと、手元の画面がそのままプロジェクトになり、プロジェクトがワンクリックでサイトに変わってゆく…

Notionがユーザーに提供しているのは、自分の道具を自分でつくる実感。
Notionのエモーショナルデザインの思想は、まさにこうした瞬間に宿っています。今回はNotionの歴史をひも解きながら、どのようにして人に愛されるプロダクト形づくられてきたのかをみていきたいと思います。

現代人も、創造性を制約されているのではないだろうか?

共同創業者 Ivan Zhao・Simon Last

[1] Notionのはじまり|2013年、若き2人の創業者

Notionのはじまりは、2013年。
エンジニアリングデザインを学び、幼少期からプログラミングに没頭してきた Ivan Zhaoが、当時大学生だった Simon Last に連絡を取ったことから始まります。

Zhaoが抱いていたビジョンは、とてもシンプルで、しかし途方もなく大きなものでした。

“人々があらゆるコンピューティングデバイスを、「文章を書く」のと同じ創造性と柔軟性で扱えるようにしたい”

世界にはおよそ数十億人のコンピュータユーザーがいますが、ソフトウェア開発者は人口のごく一部に過ぎません。一部の調査では、世界人口の0.3〜0.4%程度しか開発者がいないとも言われています。

Zhaoはこの状況を、印刷技術が普及する前の世界に重ね合わせます。
・当時、読み書きできるのは聖職者と書記官だけだったこと
・だからこそ、人々は文学作品や詩、研究を「生み出す」立場にはなっていなかったこと・創作の可能性を封じられていたということ

“コンピューターの世界でも、同じようなことが起きているのではないか?”

そう感じた彼は、「ソフトウェアを作れる人」と「そうでない人」の境界を減らしたいと考えるようになりました。その最初の答えが、【非プログラマーでもアプリを作れるツール】としての初期版Notionだったのです。

[2] 実感を持って共感するユーザーが、いなかった

しかし、現実は残酷でした。
非エンジニアは、アプリ開発ができることを求めてはいなかったのです。

Zhaoも後に、「誰も求めていないものを作ってしまった」と振り返っています。ビジョンとしては魅力的であったものの、当時のプロダクト設計と市場の接続の仕方が、うまく噛み合っていなかったそうです。

[3] すべてを捨てて京都へ。極限のリビルド

スタートアップ創業から3年、資金はほぼ底をつき、従業員も解雇。
残りの資金で生き延びるには、生活コストを半分以下に抑える必要がありました。そこで二人が向かったのは、日本の京都。

本人(@ivanhzhao)のXより

借りた小さな二階建ての家。
障子ひとつで仕切られた一階のスペースで、1日18時間コード、コード、コード…

それでも、ZhaoとLastは 「Notionのコンセプト自体は、絶対に価値がある」 と信じていました。「世界中の一般ユーザーが、自分の道具やワークスペースを自ら構築できるようにするプロダクトは、必ず必要とされるはずだ」と。

[4] 1年の集中開発の末に生まれた Notion 1.0

Notion 1.0は、Notionの象徴的な黒と白に近いグレーのデザインが採用され、ドラッグ&ドロップ式のToDoリストやWikiの作成、さらに30種類以上のドキュメントテンプレートを備えていました。これは、今のNotionにも通じるものでした。

2人は、すぐに収益化を目指すのではなく、まずはユーザー数と認知力を獲得する戦略を取ります。”Product Hunt”というテック製品の投票サイトでは、Notionに早期投資していた著名投資家 Naval Ravikant にツイートを依頼することで、一気に知名度を獲得に成功。Notionがようやくテック業界の目に留まる存在になると、その後、スタートアップの創業者たちが使い始め、やがて大きな資金調達へと広がりを見せ始めました。

Notionのエモーショナルデザイン要素

危機に直面しながらも、一貫したビジョンを軸に成長したNotion。そんなNotionは、人間の根源的な欲求をうまく満たす様々な設計が組み込まれています。

【エモーショナルデザイン要素1】 自分の道具を自分でづくる、心地よさ

Notionの最小単位は「ブロック」です。
/コマンドで必要なブロック素早く呼び出し、本文・画像・DBの追加などを自在に組み立ててゆきます。ユーザーは、「整っていく過程」そのものに心地よさを感じ、それが所有感につながってゆく…。Notionは、使うほどに“自分の道具”になっていく感覚をもたらしているのです。

【エモーショナルデザイン要素2】 存在を消すUI

Zhaoがかつて語った有名な言葉があります。

“UIはあなたを邪魔しないために存在するべきだ”

NotionのUIは、とことん存在感を消す方向のデザインがなされています。

ショートカットを推奨した高速構築、情報階層の明瞭化、十分な余白による視線誘導(視線が常にコンテンツへ誘導される)…など、Notionを代表するこれらの特徴は、Zhaoが京都で身につけた美学でもあるといいます。

「無駄をそぎ落とし、必要なものだけが静かに残り、使う人の手つきを邪魔しない」そんな美学がNotionには含まれているのです。

【エモーショナルデザイン要素3】公開の快感

Notionは、共有の設計が圧倒的に優れています。
例えば、ワンクリックでサイトとして公開できること・構築したテンプレートを配布できること・独自ドメイン接続が可能なこと…など

・つくったものを人に見せたい
・フィードバックを受けて改善したい
・テンプレートを売ってみたい
・自分の知恵や工夫をコミュニティに還元したい

…そんな、つくる・公開する・使われる・FBをもらう、といった人々がもつ根源的な欲求をうまく捉え、共有したくなるワークスペースとして進化してきたと言えるのかもしれません。

Notionの美学

さて、ここまでNotionのエモーショナルデザイン要素について触れてきました。ここからは、Notionがプロダクトを育ててゆく上で大事にしている哲学・美学についても触れてみたいと思います。

Notionにとってユーザーは、単なる”ユーザー(使い手)”ではない

Notionを語る上で、もう一つ外せない要素があります。
それが、コミュニティ運営のうまさです。

Notionはユーザーを単なる顧客としてではなく、プロダクトを共につくり育てる“共創パートナー”と捉えています。
実際、Notionに関する情報を検索していると、「Notionコンサルタント」や「Notionアンバサダー」、「Notionチャンピオン」といった肩書きを目にすることがあるでしょう。これは、ユーザーの要望を集めてプロダクトの改良に反映させるだけでなく、ユーザー自身がノウハウを共有し、テンプレートを販売し、企業導入を支援するといった活動を通じて、Notionを軸に新しい価値を生み出していることの表れです。
そして、その価値が再びプロダクトを育てていくという「共創の循環」を、Notionは意図的に設計しているのです。

ソフトウェアで、人間の創造性を解放させるためには…?
ヒントはレゴにあった

Notionの最大の差別化要因は、ユーザーの目的に合わせて自由に組み替えられるモジュール構造にあります。

チャート、画像、DB、コード、プロパティ…これらがフラットな“ブロック”として同列に扱われています。

Notion側は“ブロック”と“最低限のルール”だけを提供し、世界中のユーザーが、その上に自分の世界観を構築していく…ここに、Notionが創業当初から掲げている「ソフトウェアで人間の創造性を拡張する」一つの解が見えるような気がします。

目指す未来|道具から仲間の提供へ

人の欲求を巧みに捉えてきたNotionは、これからどの方向へ進化していくのでしょうか。2025年9月に発表された「Notion 3.0」では、AIエージェント(Agents) が中心機能として強調されています。

Agentsはワークスペース全体を読み込み、文脈を理解し、ページやデータベースを生成し、必要なアクションまで実行する“AIチームメイト”としてふるまいます。

それはまるで、ユーザーの作った環境に共創者として入り込む存在。
Notionは今、“自分でつくる道具”から“創造を支える仲間がいるワークスペース”へと変わろうとしているのかもしれません。

最後に

Highliteでもヘビーに使ってるNotion。
いざデザインの観点で紐解いていくと面白い構造をしていることがわかりますね。

これからのAI時代、あらゆるプロダクトはシンプルで使いやすいだけでは埋もれてしまいます。今までUIUXデザイナーはその部分を担保していましたが、以降は使いやすい+使ってて楽しいなどの感情演出をプロダクトに吹き込むことが必須となるでしょう。

自社プロダクトにもこのような演出をしてみたいと言う方がいたら、お気軽にご相談くださいね。


参考情報
– 
The Product Strategy Notion Uses to Hide The Next Software Revolution Inside A Productivity App
– Augmenting Human Intellect, No Code Required(SEQUOIA)
– Why Notion is loved by users: Customization and Quality(Medium)
– Notion 3.0 launches AI agents — and I think personal workspaces are next(tom’s guide)
– Notion CEO Ivan Zhao wants you to demand better from your tools(theverge)
– How Notion Cofounder Simon Last Builds AI for Millions of Users
– First Block with Notion Co-Founders Ivan Zhao and Simon Last
– Design on a deadline: How Notion pulled itself back from the brink of failure

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