「一緒に作る」を徹底するデザイン—Figmaに学ぶ“共在感”のUX
マウスカーソルが同時に動き回り、付箋や絵文字が次々と飛び交う。デザインはひとりの作業から解き放たれ、その場で進化していく。
Figmaが提供してきたのは、単なるデザインツールではなく、「一緒に作っている」という感覚そのもの。
その背後には、人と人との距離を縮めるエモーショナルデザインの思想があります。ここではFigmaの歴史をひも解きながら、どのようにして愛着を生む体験が形づくられてきたのかを見ていきたいと思います。
彗星のごとく現れたFigma
3年以上の秘密開発期間を経て
Figmaの創業者は、大学生だったディラン・フィールドとエヴァン・ウォレス。二人はピーター・ティールの起業家育成プログラム「Thiel Fellowship」に採択され、10万ドルの資金を得てプロジェクトを始動しました。
フィールドは幼少期からテクノロジーとデザインに熱中し、大学でもリーダーシップを発揮。ウォレスはWebGLに精通し、ブラウザ上で高度なグラフィックスを描くエンジニアでした。
彼らが目指したのは「高価で習得が難しい従来のソフトウェアではなく、誰もが使えるツールで、内なるアーティストを解放する」これが初期の構想でした。

2012年の正式なプロジェクト開始から、Figmaは約3年以上にわたり、市場に姿を表さない「ステルス開発(開発の詳細が外部に漏れないよう秘密で開発を進めること)」を行っていました。
当時10人弱だったチームメンバーは、焦燥感と葛藤を抱えながらも、コンセプトの磨き上げ(デザインプロセスにおけるコラボレーションの欠如を無くすこと)や競合優位性の構築(最も優れたユーザー体験、最も優れたデジタル体験をデザインすること)そして、それらのコンセプトと戦略を叶える技術力(同時編集を可能にする同期技術、複雑なフォントレイアウトの再現、それらの技術を支えるメモリ管理技術など)“体験の土台”を磨き上げていました。
2015年12月、ついにプレビュー版を公開。
2016年9月には正式リリースにこぎつけます。3年以上にわたるステルス開発をしたことにより、まさに「彗星のごとく」十分な品質を担保できる状態で世に出すことが可能でした。

Figmaのプレビュー版は無料で提供され、その代わりにユーザーからの積極的なフィードバックを集めていました。待機リスト制を導入し、サーバー負荷を管理しながら徐々にコミュニティを拡大していく戦略が取られ、早期の収益化より、ユーザーコミュニティを育成し、製品の完成度をさらに高めることが優先されました。初期ユーザーへの対応は驚くほど手厚く、Coda社でネットワークトラブルが発生した際には、共同創業者のウォレスが自ら現場に駆けつけて解決したという逸話が残っているほど。
その後、Adobeによる200億ドル規模の買収提案(2022年)を経て、2025年7月には上場。Figmaは「デザインを解放する」という構想を現実にしてきました。
Figmaのエモーショナルデザイン要素
圧倒的な技術力と、さまざまな応援者(投資家)との関係構築、そしてユーザーとの手厚いコミュニケーションによってここまで大きくなったFigma。
ここでは、Figmaのエモーショナルデザインを3つご紹介します。
【エモーショナルデザイン要素1】 共在感を生むマルチプレイ

「誰と一緒に作っているのか」が視覚的に伝わる仕組みは、心理的距離を縮め、協働する温度感を上げます。さらに、Dev Modeを通じてデザインから開発への橋渡しをサポートし、“最後まで届く”安心感をユーザーに与えています。
【エモーショナルデザイン要素2】 前工程の遊び心

付箋や絵文字、手描きツールを備えたFigJam。そこでは「真面目に議論しなきゃ」という圧がやわらぎ、誰でも気軽に参加してよい雰囲気を演出します。そんなグラフィカルな遊び心が参加コストを下げ、結果的にアイデアの量を増やし、愛着を育ててゆく…。
Figmaには、そんな戦略的な遊び心が組み込まれています。
【エモーショナルデザイン要素3】 ユーザーコミュニティの存在

前述した通り、Figmaはユーザーとのコミュニケーション・ユーザー同士のコミュニケーションの創出を大事にしています。
Figma公式のカンファレンスやBlogでは「Figmaはまだ進化の途中」というトーンを一貫して保っており、完成品ではなく“進化し続ける仲間”としてプロダクトを語る姿勢は、ユーザーに「自分も一員だ」という感覚を与えています。Figmaは「共進化」というスタイルで文化を作っているのです。

Figmaの美学
・想像と現実のギャップをなくすこと
・すべての人がデザインにアクセスできるようにすること
・そして、人々がもつ創造性を解放させること
Figmaの発信にはこんなキーワードが頻繁にみられます。

目指す未来
Figma創業者兼CEOであるDylan Fieldは、Figmaのビジョンを次のように語っています。
Figmaのビジョンは、すべての人がデザインにアクセスできるようにすることです。それが成功すれば、Figmaを履歴書のスキルとして記載することが、Google Docsの熟練度を強調するのと同じくらいばかげたことになる。このレベルのオープン性とアクセスが、デザインや製品開発の枠をはるかに超えて広がっていくことを願っています。
(引用:Figma創業者兼CEO Dylan Field)
美学をもっと共有するための、上場
2025年7月に上場を選んだFigma。
上場の意義について、フィールドは「コミュニティの皆様にFigmaの所有権を共有していただきたいという思いです」と語っています。
AIがデザイナーを補助し、誰でもMVPをつくれる時代だからこそ、最後に差をつけるのは“美学”そのもの。Figmaは、何をよいとし、美しいとするかという人々がもつ創造性とアイデアを育てる静かな”庭”として、人々に寄り添い続けることを、誓っています。
そして経営面でも、創業者たちはクラスB株を通じて議決権の約74%を保持し、文化と美学を守り抜く構造を維持しています。
つまり、Figmaの初期ビジョンである「想像と現実の隔たりをなくすこと」という思想は、技術やUIだけでなく、経営そのものに組み込まれているのです。

最後に
米国スタートアップでは開発する際にデザイナーがいない会社は資金調達が難しい状態になっています。今回取り上げたFigmaではデザイナー向けということもあり、特にデザイナーがプロダクト開発に大きな価値をもたらした場合の良い例だと見るといいでしょう。
結局ツールを使うのは人間。であれば利便性を上回る価値のために、利用時の感情を丁寧にケアしてあげる心理的なUIアプローチはとても大切だとHighliteでは信じています。
わたしたちはUIのサポートも行っております。プロダクト開発をしたい、良いツールを作りたいと考えている方はお気軽にご相談ください。
参考記事
– Qu’est-ce que Figma ?
– 買収金額2.9兆円、Figmaの成功を支えたハッカーたち(Newspicks)
– “ユニコーン”に戻ったFigmaが描く「製品開発の未来」(Forbes)
– Figma’s IPO: Design is everyone’s business(Figma blog)
– デザインソフトのフィグマが上場、終値は公開価格から「250%以上急騰」(Forbes)
– ブラウザで会いましょう- Dylan Field(Figma)
– クラフトと美: 形と機能の融合による投資対効果(Figma)
– デジタルクリエーションの未来に向けた6つのメモ(Figma)
– デザイン文化の確立が人材確保の決め手(Figma)
– Figma: Dylan Field – How I Built This with Guy Raz
– Config 2025: Figma product launch keynote (Dylan Field, CEO & Co-founder, Figma) LIVE at Moscone(YouTube)
執筆者情報:Kanon Hayashi
